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和歌山地方裁判所田辺支部 昭和33年(わ)125号 判決

被告人 美島京次こと堀慶喜

明三一・一一・二〇生 土工

主文

被告人を死刑に処する。

理由

罪となるべき事実

被告人は、和歌山県西牟婁郡すさみ町小河内一、三〇三の内一の本籍地において、昭和二一年頃から山林ブローカーをしていたものであるが、同二八年三月頃から同町大字本城、飲食店紀文亭(経営者前地チヤ)の接客婦住本うつゑ(当時二六年)と馴染となり、屡々同女と情交関係を重ねてきたので、知人等からも同女を正式に妻とするよう勧告されたこともあつたが、被告人は同女との年令の相違や、子供等のことを考えて心を決し兼ねている中同年八月に至つて、突然同女から同町周参見製材職工坂本武夫(当時三六年)と夫婦になりたい旨打明けられたが、平素から同人を心良く思つていなかつた被告人は、坂本と夫婦となることは絶対に承知出来ない旨言い渡したため、同女は一時これを断念し依然として被告人と関係をつゞけていたところ、翌二九年一月六日頃、同女が前記被告人宅に訪れ、再度右坂本と結婚することの承諾を求めてきたので被告人はこれに反対し、同女に翻意を求めたが同女の態度が強硬でこれに応じようとしないので、もはや同女が坂本と夫婦になることは決定的でいよいよ裏切られたものと考え、同女に対する未練絶ち難く痛く懊悩した揚句同月一〇日頃憎悪と嫉妬の念に燃え、いつそ両名を殺害して自殺しようと決意しその目的を確実に果すためにはダイナマイトを使用するにしくはないと考え、自宅において林道改良工事に使用した残りの導火線雷管を保管していたのを取出して鞄に入れて同町周参見に来たが同所における噂等を聞くにつけ坂本及びうつゑ二人に対する憎みの念がますます募り、一層同人等殺害の意をかため死後の霊が安からんことを祈願するため同月一二日うつゑを誘うて相共に熊野那智山に参詣して同女と周参見まで帰来したが、実行前に所用を果して置こうと考え、同所で同女と別れて田辺市に来て一泊し知人方を訪れて後、翌一三日ダイナマイト入手のためかねて知つている西牟婁郡上富田町(当時朝来村)朝来一三二八番地火薬商吉川い乃方に到り同店より小型ダイナマイト五十本入一箱を買求め、同一四日午後八時頃すさみ町周参見三好屋旅館二階四畳半の間に落着いた上、右坂本の止宿先である同町周参見一九五〇の二小阪喜代助方附近に到り、坂本の居住する二階の部屋あたりをうかがつたところ、坂本及び住本の二人が同棲している気配を確めたので、被告人は痛憤やる方なくいよいよ当夜両名殺害を実行しようと決意し、前記三好屋旅館の部屋に引き返し、同所において窓の外に有つたビール瓶に前記小型ダイナマイト約二〇本を詰め込み、携行した雷管に導火線を取りつけて瓶の口から押し込み、瓶の口を紙で堅く詰めた上、瓶の外側を包紙で巻きつけて紐で縛り、こゝにダイナマイトを詰めたビール瓶二本(証第十号はその一本)を作り上げ、更に子供、知人等に宛て、書置六通(証第四乃至第九号)を認めた上、翌一五日午前三時三〇分頃、両名の止宿先である前記小阪喜代助方に到り、附近を通る紀勢西線夜行列車の轟音を利用して同家二階四畳半の間に至り、同所に両名が同衾中であることを確めた上携えてきた前記ダイナマイト入りビール瓶の導火線にマツチで点火し、これを就寝中の両名の膝関部附近の中間において爆発せしめ、もつて右両名殺害の目的をもつて爆発物を使用し、よつて右坂本武夫に対しては左下肢は大腿中央部より離断欠損、左上肢は左腕関節部より末端部まで原形を留めない挫滅創、右下肢は右腿上部内面及内踝部に直経約三糎大円形皮膚欠損筋肉露出する傷害を、右住本うつゑに対しては両側下肢は大腿中央部より離断欠損、陰股部は挫滅原形を留めない傷害を与え、よつて間もなく同所において右両名を死亡するに至らしめて殺害したものである。

(証拠の標目)〈省略〉

法令の適用

被告人の判示所為中、殺人の点は各刑法第一九九条に、爆発物使用の点は爆発物取締罰則第一条に各該当するところ、以上は一個の行為で数個の罪名に触れるので刑法第五四条第一項前段第一〇条に則り、最も重い爆発物使用罪の刑に従い、犯情により所定刑中死刑を選択して被告人を死刑に処することとする。

弁護人の心神耗弱の主張について、

弁護人は、被告人は本件犯行当時心神耗弱の状況にあつたものであると主張するが、前記各証拠により認められる被告人の本件犯行前後の行動は、冷静沈着でしかも極めて計画的に事を運んでいるのであつて心神耗弱であつたとの徴候は何等認めることは出来ない。よつて弁護人の右主張は採用出来ない。

よつて、主文の通り判決する。

(裁判官 依田六郎 久米川正和 萩原寿雄)

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